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中国金融論研究の第一人者で、InfoDeliverビジネス開発本部アドバイザの張秋華が、最新の中国の金融の仕組みや金融情報について、わかりやすく解説します。
中国アウトソーシング
張秋華略歴
InfoDeliverビジネス開発本部日中金融投資事業アドバイザー
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 「中国金融論」教授
中国上海出身。大阪大学経済学部留学、卒業後日本シティバンクに入社。在日華人向け資産運用部門「CitiChinese」創立。
2002年より日本HSBC香港上海銀行中国業務推進室長を務め、日本企業の中国事業ファイナンシャルアドバイザーを担当。
2008年4月より現職。社会活動として「中国金融研究会」(三思会)の副会長を務む。
豪ボンド大学経営学修士。
中国金融コラムバックナンバー
2010年1月号 
「香港ドルは米ドルへのペッグをやめて、人民元にペッグするのですか?」
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2010年1月号
「香港ドルは米ドルへのペッグをやめて、人民元にペッグするのですか?」
11月19日開催された第10回中国金融研究会《三思会》でこの質問を受けました。「香港は中国の一部になり、人民元との相場とも近いので、米ドルペッグをやめて、人民元にペッグすることは可能か」との質問でした。

私の回答を端的にいいますと、香港ドルと人民元は全く違っている通貨制度のため、現地点での統合あるいはペッグはあり得ないというところです。少なくとも、人民元が完全に国際交換できるようなハードカレンシーとなってから初めて、香港ドルは人民元にペッグしても可能だと思います。その場合、香港基本法による50年間香港ドルが香港の法定通貨とするという束縛がなければ香港ドルを廃止して人民元に統合するのも問題ないと思います。

まず香港ドルと人民元は全く違う通貨制度である点を見てみましょう。

香港ドルは1983年以来米ドルに対して1USD=7.8HKD(7.75から7.85の小幅レンジで変動)のペッグ制を採用しています。これは香港が高度に開放されている国際貿易と金融センターであり、米ドルの決済が経済活動の大部分を占めていることにあります。

米ドルへのペッグ制を採っている国は少なくありませんが、自国通貨の実力が定められた固定相場ほど価値がない場合危機に見舞われることもしばしばあります。香港ドルのペッグ制が別格に成功している背景には、香港のドルペッグ制はカレンシーボード制であることがあげられます。つまり、1香港ドルの発行には必ず相当する米ドルが裏づけられている点です。発券銀行であるHSBC、スタンダードチャータード銀行、中国銀行が香港ドルの銀行券を発行する際、必ず相応額の米ドルを預託する必要があります。

1997年アジア通貨危機の際には、香港ドルが国際投機資本の攻撃対象になったにもかかわらず何とか守られたことはこのカレンシーボード制を採っている通貨政策に大きく関係しています。当時、香港ドルは大量に売られ、結果として香港ドルが米ドルへ交換されて銀行券が市場から少なくなり、金利が急騰しました。一時オーバーナイト金利が300%まで上昇したこともありました。このため香港ドルを借りて売っている投機筋は、その借入コストの上昇に耐えられなくなり、香港ドルへの攻撃が撤退せざるを得ませんでした。

さてここで、一国(一地域)にとって、どのような通貨制度を選択し、またその通貨制度を選択した場合どのような影響があるのかについて、国際金融のトリレンマという理論があります。これは国際金融政策において、自国金融政策の有効性(独立した金融政策)、通貨の安定性(固定相場)と自由な資本移動が3者同時に実現できないという理論です。

なぜ3者同時に実現できないのか、例をあげて説明します。例えば、自国経済の不況時に経済活性化を図って利下げを実施したとします。この場合、自国通貨の金利低下により資本が国外に流動され、自国通貨の為替が低下します。もし資本移動を許したうえ固定相場を維持しようとすると、自国通貨の買い介入をしなければなりません。しかし、その介入の結果は自国通貨の金利上昇をもたらし、当初の利下げ効果が消えます。

この理論でいいますと、香港はまさに米ドルへのペッグ制を採りかつ資本の自由移動を実現しているわけですから、独立した金融政策を放棄しなければならないのです。現に香港は米国の金融政策と同期しており、米国が利上げをすると香港も追随することになります。米国とのマクロ経済状況が相違する場合、米国の金融政策を追随すると経済への悪影響も出ます。しかし、香港の経済構造が柔軟に調整できているため、これまで大きい問題となっていません。

一方、中国の場合は為替の安定性と自国金融政策の有効性を確保する代わりに自由な資本移動を禁じています。言いかえれば中国の通貨安定は資本の自由移動を許さないことで実現できています。現行の人民元通貨制度は「バスケット通貨を参考にした管理フロート制」となっていますが、実質米ドルに固定またはクローリングアップしています。

以上のことから、香港ドルと中国元制度の一番の違いが明確となりました。要するに、香港は米ドルにペッグをし、金融政策の独立性を放棄している一方、中国は人民元の自由移動を犠牲にしています。また、香港ドルは世界中の通貨と自由に交換できる通貨であるのに対し、人民元は自由交換できない通貨です。(注:経常取引における人民元交換は許されていますが、香港ドルのように完全な自由交換はできません。)一見、香港ドルと人民元の為替レートは近づいても、通貨制度でみた場合全く違う質の通貨ですので、統合することは不可能です。

もし仮に香港ドルが人民元にペッグすることが実現できるのであれば、人民元は実質国際自由移動できる通貨と見なすことができます。なぜならば香港ドルがいくらでも自由交換できますので、香港ドルを通じてやれば人民元はいくらでも自由交換できたことになります。

そうなった場合、どういうことが起きるのでしょうか?現状では、人民元の上昇を期待し、賭けようとする投機資本は人民元の代わりに香港ドルを買います。香港ドルが大量に買われ本来は上昇しますが、人民元にペッグするため、上昇抑制の介入をしなければなりません。その場合香港ドルが大量に供給され、インフレが起きます。

実際に中国の場合は資本規制があるのにもかかわらず、人民元の上昇に賭けるホットマネーと思われる国際短期資本が大量に流入しています。グローバル金融危機前の2007年にこのような国際短期資本は月平均約250億ドルのペースで中国に流入したのです。中国金融当局は人民元の急上昇を防ぐために継続的に介入し、人民元の流動性を提供しています。また、流動性過剰によるインフレを抑えるため、常に中央銀行手形を発行し不胎化政策を実施しています。介入コストは手形の金利分に加え増えた外貨準備の運用リスク(大半は米ドルで運用しているため、米ドルの下落に伴い資産価値の下落リスクを含め)を考えると膨大な負担となっています。このコスト負担が自由に交換できる香港ドルとなった場合どれだけ膨らむのかを予想できません。このようなリスクをとってまで香港ドルが人民元にペッグすることは現実的に考えられないと思います。

香港は1997年中国に返還されて以来、確実に中国と経済関係上密接になってきました。人民元決済においても、中国観光客の人民元使用を始め、香港現地銀行の人民元業務提供、人民元建て債券の登場、さらに今年7月の上海、広州、新圳、東莞、珠海の中国5都市との人民元貿易決済の導入によりますます拡大してきています。これらは香港が人民元国際化過程において実験場としての役割を表していると同時に、いずれ両通貨の融合を図るための条件がよくなっていることを意味します。

一方、人民元国際化の進捗が香港ドルの行方にとって決定的な要素となります。なぜならば、人民元国際化の実現は人民元がハードカレンシーとして登場することを意味し(同時に人民元固定相場の撤廃も)、両通貨が同質の通貨となることで、初めて統合することが可能になるでしょう。

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